30年ぶりの尾瀬 ~前編~

学生時代、自転車サークルの友人に誘われるままに同行した、尾瀬への1泊旅行。新緑が芽吹き始めた春の尾瀬ヶ原、雪にすっぽりと覆われた至仏山への登山。今でも思い出す、様々なシーンの数々。本当に良い思い出である。

あれからおよそ30年の月日がたち、再び尾瀬へと向かうことになった。また尾瀬に行きたいなぁ…と思っていたところを後押ししてくれたのは、やはり昔からの友人だった。今回は、3日間の行程である。

フィルムカメラによる写真

1日目は足慣らしということで、朝の8時に群馬県の金精峠に集合。友人曰く、少し山歩きをしようということだったが、どこに行くのかはぼんやりとしか聞いてない。

デジカメ写真、モデルは友人H氏

沼田側から金精峠のトンネルを抜ける。峠の駐車場はすでに満杯であったが、その時間から帰る方が声をかけてくれ、2台の車を停めることができた。デイパックに荷物と食料を入れて、いざ出発。友人が、軍手はいらないのか?と聞いてくる。ん?軍手が必要なのか?もしや、山歩きではなく、山登り(つかまり系?)?、差し出された軍手を借りる。友人は準備がいい。

階段を少し上ると…やっぱり「山登り」の方だった… 突然かなりの急勾配!梯子やら、鎖やら、ロープもある。登り系アイテムのフルコースだ。登り切った先は、金精山(2244m)、金精峠の駐車場から140mほど登ったらしい。そこからは尾根伝いにゆったりと歩いていく。登山道は狭く荒れているが、時折覗く景色はかなりいい。程なくして、五色沼が見下ろせる五色山に到着。早めの昼食を取り、来た道を戻る。足慣らしにしては少々きつかったが、なまった体には心地よい準備運動だった。

1泊目は、尾瀬散策の前線基地である、戸倉の民宿に泊まる。このお宿は、正直「当たり」であった。お湯よし、ご飯よしで言うことなしだった。同行の友人は、学生時代からの長い付き合い。卒業してからも交流があり、共に屋久島に行ったこともある。お互い自営業ということもあり、時間の融通が同じくらい効くし、フットワークも良い。しかし、体力は彼のほうが数段上である。お酒も進むが、明日も早いので、早々に就寝する。

ここから電話すれば、鳩待峠で拾ってくれる。

翌朝は、宿から乗り合いタクシーで尾瀬の玄関口である鳩待峠に向かう。おひとり様1,000円で値段はバスと同じだが、帰りも同じタクシーを使えば、車をデポしてある宿まで送ってくれるシステム。宿に泊まるなら、乗り合いのタクシーを使うのがお得である。

さて、いよいよ尾瀬に向かって出発する。尾瀬の入り口「山の鼻」までは延々下りである。道はほぼ木道で、滑り止めも施されているので、山をなめた靴を履いていても大丈夫だ。30年前は、ただの林道だったような気がするが、定かではない。

突然視界が開けて、「山の鼻」に着いた。山の鼻にはいくつかの山荘とビジターセンターがある。昼間の山荘はカフェ営業をしているところが多いが、いかんせん時間が早くどこも始まっていなかった。また、尾瀬に入ると、トイレは全てチップ制の有料トイレなので、100円玉を何枚かすぐ出せるようにしておいた。

ここからは、いよいよ尾瀬ヶ原に入る。人はそこそこいるが、かなり少ないと思う。おそらくコロナ禍がなければ、正気とは思えない人数が押し寄せているはずだ。木道は,30年前よりも幅が広く、しっかりしている。この木道や施設などを維持するために働いている皆さんには、本当に頭が下がる。30年前は、そこそこゴミが落ちていたりもしたが、人々の環境に対する意識が少し進歩したのか、ほとんどゴミは落ちていなかった。湿原の豊かな植生はそのままだ。天気は快晴、彼方の燧ケ岳を眺めながら歩く。振り返ると、明日登る予定の至仏山も見える。尾瀬は誰もが行きたいと思う観光地だが、何もないのも事実。ただただ湿原に敷かれた木道を歩きに歩き、尾瀬固有の植物や小動物、昆虫などを眺めるだけだ。しかしその時間が、何物にも代えがたい至福の時間なのだ。

2時間ほど歩くと、「見晴らし」に着く。ここにも数件の山小屋がある。記憶とはずいぶん違ったたたずまいだが、30年前に泊まった桧枝岐小屋も健在である。山小屋は、こちらにもカフェ営業をしているところがあり、なかなかに賑やかだ。昼食には少し早いので、さらに歩いて東電小屋まで足を延ばす。東電小屋でカレーを食し、昼食とする。味はまあ、推して知るべしであるが、感謝の気持ちがあれば、何でもごちそうである。

さて、今日の尾瀬散策はここまで。再び、「山の鼻」に向けて歩き始める。日は少しずつ傾き始め、紅葉した草の葉が黄金色に輝き始める。時間の経過を楽しみながら、再び歩きに歩き、山の鼻まで戻ってきた。

2泊目の宿は、至仏山荘である。実はこの山荘では、学生時代の後輩がアルバイトをしている。その彼に会うのが今回の尾瀬ツアーの目的の一つである。久しぶりの再会ではあるが、今の時代はSNSなどで情報だけはつながっているため、さほど長期間会わなかった気はしない。同行の友人は明日は仕事のため、ここでお別れ。後輩とともに見送ってから、宿に入った。

至仏山荘は、ガチの山小屋ではなく、民宿に近いドミトリー形式のお宿である。普通に風呂にも入れるし、食事もおいしい。消灯は20時であるので、後輩との酒宴もほどほどに、翌日に備えて就寝した。

つづく